福島県議が見たチェルノブイリ 復興の険しさ痛感
日本経済新聞 2012年8月27日朝刊 より引用

福島県議会議員の調査団が7月、1986年に事故を起こした旧ソ連・チェルノブイリ原子力発電所の周辺国を視察した。現地の放射性物質対策を福島県の復興に生かすのが狙い。ただ、現地では事故から26年経ても放射線の影響は根深く、原発事故からの再生に向けた道は険しいことを痛感する視察となった。

原発から約5キロの距離にあるウクライナ・プリピャチ。約5万人の全住民は原発事故の翌日に避難した。中心部には廃虚となったホテルや文化会館が並ぶ。広場の表面などは除染したものの、放射線量が下がらず帰還は断念した。足を踏み入れた県議が広場の表面を測定したところ、毎時6マイクロシーベルト。事故から26年たっても放射線量は下がらない。吉田栄光県議は「福島が26年たってチェルノブイリのようになってしまう心配がある」と漏らす。吉田県議の地元は福島第1原発が立地する双葉郡。自宅も警戒区域の浪江町にあり、帰還のメドは立たない。除染が進まなければ、プリピャチのように廃虚になる恐れもある。

調査団に参加した県議は17人。廃炉が進むチェルノブイリ原発のほか、ウクライナとベラルーシの政府関係者、現地の病院などを訪れた。除染で出た汚染土などを保管する貯蔵施設も視察した。原発から10キロ圏のブリャコフカ地区にあり、広さは約96ヘクタール。原発から30キロ圏内の立ち入り禁止区域で発生した低レベル放射性廃棄物を埋設する最終処分場だ。日本でも汚染土などを保管する中間貯蔵施設を大熊町や双葉町などに建設する計画だ。ただ、現地の貯蔵施設周辺で生活する住民はいない。吉田県議は「住民の帰還と中間貯蔵施設の設置は相反する政策にみえる」と指摘する。

調査団はウクライナやベラルーシ政府の担当者から放射線の被曝を防ぐ取り組みも聞いた。避難指示解除準備区域の南相馬市小高地区に自宅がある高野光二県議は「低線量放射線の環境で生活を続けるには住民の健康管理を徹底しなければならない」とみる。特に日本は居住制限の目安となる被曝線量が年間20ミリシーベルトと、チェルノブイリ原発周辺国の同5ミリシーベルトより高い。これは日本政府が原発事故の緊急時がいまだに続いているとして基準を下げていないためで、福島県民はより多くの被曝を受け続ける恐れがある。

汚染地域で働く医師らの支援制度も厚い。ベラルーシでは最大で2倍の給料が支払われ、住居も提供される。高野県議は「帰還するには病院などインフラを整備する具体的な計画をつくらなければいけない」と強調する。農業再生の取り組みに注目したのは、川俣町で酪農業を営む佐藤金正県議だ。ベラルーシの農業対策を担う放射線学研究所の視察では、放射性物質に汚染されていない穀物や家畜の生産方法を聞いた。放射性物質の吸着材なども活用して対策は効果を発揮していた。佐藤県議は対策には一定の効果があると評価しながら「事故から1年しか経過していない福島県と比べられない」と話す。また風評被害がいまだに続いていることも聞かされ、農業を再生する難しさを痛感した。

調査団は社会体制や土地の地形、事故の規模などが大きく異なることも理解しながら、現地では事故から四半世紀たっても放射性物質との闘いを続ける厳しさを感じた。視察を通じて光明の一つといえるのは再生可能エネルギーだった。調査団の一部はドイツにおけるバイオマスや風力発電などの取り組みも視察した。佐藤県議は「福島県が進むべき未来を見たような気がした」と話す。福島県議会は昨年10月、県内にある全10基の原発廃炉を求める請願を採択して「脱原発」を打ち出した。今回訪問した県議らは9月から開く県議会で視察の成果を踏まえ復興に向けた政策を訴えていく考えだ。

原発事故からの復興をどう進めるのか。福島県議会議員の調査で分かった違いの1つが、復興を主体となって進める政府の体制だ。ベラルーシで原発対策を担う国家非常事態省の担当者は、福島県議から「省庁間の調整はどうしているのか」と聞かれ、「日本のような問題は全くない。我々が統率してすべてを動かす」と答えた。旧社会主義国だった点も考慮すべきだが、復興の加速にはリーダーシップの存在が欠かせないのは明らかだ。

日本では復興庁が2月に発足した。ところが原発事故では責任の所在はバラバラ。原発事故自体は東電が責任を負うが、賠償の支払いを定める指針は文部科学省が決める。復興庁が関わる余地は少ない。除染なども複数の省庁が絡む。除染全般と中間貯蔵施設は環境省が担当するが、森林や農地の除染は農水省が加わる。避難区域見直しは原子力災害対策本部が責任を持つが、見直しに必要な放射線モニタリングは文部科学省が実施する。ある県議は「担当がバラバラで、復興に向けた責任が全く見えない」と嘆く。縦割り行政が続くなか、細野豪志環境・原発事故担当相や平野達男復興相らが続ける福島県の視察も、現場の徒労感に拍車をかける。

原発事故から1年5カ月。被災者をどう前に向かせて復興を後押ししていくのか。国や県の指導力が問われている。 (福島支局長 竹下敦宣)

2012.08.30 Thu l 福島放射能健康影響 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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