(耕論)インフレは救世主か 野口悠紀雄さん 2013.12.17朝日新聞

なぜデフレを脱却してインフレになればよいのかよくわからない。考える参考に記事を抜粋転載する

 消費者物価が上がりつつある。デフレ脱却の良い兆しか、賃金上昇が伴わない悪い物価高の前触れか。そもそも金融緩和でインフレが起きると期待させれば、モノが売れるのだろうか。

■賃金上がらず貧しくなる 早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問・野口悠紀雄さん
デフレ脱却のカギを握るのは、物価ではなく、賃金が上がるかどうかです。その賃金は、物価の変動を除いた実質ベースで下がっています。そもそも、物価上昇を目標にするという前提が間違っているのです。
 政府と日本銀行は物価上昇率の引き上げを政策目標に掲げてきましたが、消費者物価の上昇は円安の影響が大きいのです。

 輸入燃料価格の上昇で電気料金が値上がりしていることに加え、パソコンなどの価格も上昇しています。消費税率が上がれば、物価はさらに上昇する可能性があります。

 しかし、デフレ脱却のカギを握るのは、物価ではなく、賃金が上がるかどうかです。その賃金は、物価の変動を除いた実質ベースで下がっています。そもそも、物価上昇を目標にするという前提が間違っているのです。価格が高くなれば、実質消費は落ち込みます。7~9月期の実質個人消費は伸び悩んでいます。

 いま足元で起こっていることは、明白です。円安によって自動車を中心とした輸出産業の利益は拡大し、株価は上がりました。しかし、賃金は上がらない。一方で、物価は上昇しているため、消費心理は低迷している。経済統計をよく見れば、生活が貧しくなる方向に動いているのは明らかです。

 なぜ、賃金は上がらないのか。それは日本の産業構造が大きく変化しているからです。具体的にいえば、1990年代以降の中国を中心とした新興国の台頭によって、工業製品の価格が世界的に下落したことの影響を受けています。

 その結果、製造業は国内工場閉鎖などの大リストラが相次ぎ、労働力調査によると、ピークの92年10月に約1600万人いた就業者数が、2012年12月には、およそ半世紀ぶりに1千万人を割り込みました。

 かわりに増えたのが、医療・福祉の分野です。統計をさかのぼれる02年1月の462万人から、13年10月には約1・6倍の731万人に拡大しました。

 一方、法人企業統計から算出すると、医療・福祉の1年間の1人あたり平均給与は、製造業の半分程度です。賃金の高い製造業が縮小し、生産性が低く、パート従業員が多くて賃金が低い医療・福祉が拡大したため、全体の賃金は下がる傾向が続いています。

 グローバル化は止まりません。製造業へのデフレ圧力は今後もかかるでしょう。問題の核心は、産業構造が変化しているのに、生産性の高い新しい産業が日本に育っていないことにあるのです。米国でも製造業は衰退しましたが、金融やIT産業が成長し、雇用拡大と賃金の上昇に寄与しました。

 「インフレ期待が起きれば、実体経済も変わる」との考え方には「武器がなくても精神力で勝てる」という旧日本軍の精神至上主義と似通ったものを感じます。痛みをともなう困難な道ですが、本当に必要な政策は、規制緩和を進め、産業の新陳代謝を促すことなのです。

2013.12.18 Wed l 政治 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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