「再稼働支持しない」 米NRC元委員長、新潟知事と対談
2014年4月17日朝日新聞

 東京電力柏崎刈羽原発のある新潟県の泉田裕彦知事が、東日本大震災発生時に米原子力規制委員会(NRC)の委員長だったグレゴリー・ヤツコ氏と対談し、原発事故や地震の複合災害が起きた際の住民避難について
「国の制度全般を見直さない限り、自治体が有効な避難計画を作るのは不可能だ」と明言した。
柏崎刈羽原発を再稼働させるには有効な避難計画を前提とするとも受け取れる発言で、
ヤツコ氏も「問題点の対応をしないと再稼働を支持できない」と述べた。

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ヤツコ氏は、東日本大震災が発生して3年がたつのにあわせて東京大学で開かれたシンポジウムに出席するため、原発事故に関する「民間事故調」の母体となった財団法人日本再建イニシアティブの招きで来日。対談は3月12日夜、東京都内で行われた。主なやりとりは以下の通り。

■ヤツコ「80キロの避難勧告はよい判断だった」

 泉田 福島第一原発の事故の際、日本政府が半径20キロ圏に避難指示、20~30キロ圏に屋内退避指示を出したときに、米国は80キロ圏に避難勧告を出した。過剰だったか、適切だったか、今はどう考えるか。

 ヤツコ あとから考えてみると、とても良い判断だったと思う。おおかた、私たちが当時予測していた通りに事故は進展した。いま思えば、若干小さくしたほうがより正確だったかもしれないが、事故で我々が見えていたことに基づけば、私としては正しい声明を出せたと思う。

 泉田 私も実は今のヤツコさんの見解に賛成だ。飯舘村は30キロ圏を超えて放射性物質に汚染されたということが事後的に明らかになった。住民の健康影響を避けるという意味では米側の決定は正しかったと受け止めている。

 ヤツコ ありがとう。

 泉田 飯舘村で高い放射能を検出したのを日本政府は知っていた。しかし、1カ月以上、避難勧告を出さなかった。米国ではそういう判断はありうるか?

 ヤツコ 我々がここ日本で取ったのと同じような手段(当初は日本政府と同じ20キロ圏に避難を指示し、後にそれを80キロ圏に広げた)を取るだろう。そして避難はより良いものになると思う。日本でも、すべての自治体に避難計画があれば、避難体制はよりよく機能するだろう。ただ、私の理解するところでは、原発の周囲で避難計画がない自治体もあり、私からみれば困ったことだ。

■泉田「機能しない避難計画は作れる」

 泉田 新潟県に、福島県から約5千人が避難してきている。

 ヤツコ 新潟県には原発は何基あるのか?

 泉田 柏崎刈羽原発に7基ある。

 ――世界最大級だ。

 ヤツコ そう、最大級だ。柏崎刈羽の地元の避難計画はできているのか?

 泉田 作ろうと思えば、機能しない計画は作れる。指針はできている。が、実効性が伴わない。半径5キロ圏内に2万2千人、30キロ圏内に46万7千人が住む。米国基準では立地不適格に該当するエリアだ。

 2007年の中越沖地震では、変圧器から漏れた油で原発敷地内で火災が起きた。当時、東京電力はこの消火に失敗した。地震で地面が1メートル50センチくらい沈没し、消火栓に水を運ぶ水道管が破壊され、消火活動ができなくなった。消防隊が避難してしまった。

 新潟県庁と柏崎刈羽原発のホットラインが地震のときに機能しなかった。原発側でホットラインのある部屋のドアが地震でゆがんで開かず、職員が入れないのが原因だった。地震でも対応できるホットラインのある部屋をつくるよう東電に要求し、できたのが免震重要棟だ。同じ東電の施設なのに新潟にだけあるのはおかしいよねということで、福島第一原発に免震重要棟をつくったのが東日本大震災の8カ月前だった。新潟が「免震重要棟をつくってくれ」と言わなければ、福島第一に免震重要棟はなかった。今、東京に人が住めていたかどうか疑わしいと思っている。

 原発事故が起こるのはおそらく地震、津波などとの複合災害だろう。そういう中で、実効性ある避難計画をつくるのは極めて難しい。

 福島では病院や高齢者福祉施設での無理な避難で多くの命が奪われた。複合災害の下で2万人、あるいは46万7千人を避難させる前提で避難計画をつくれと言うのは、極めて現実から乖離(かいり)している。

 福島の事故では住民避難や物資支援のため新潟からバスやトラックを出したが、民間企業の運転手は危険地帯に入るのを拒否した。避難指示が出ている所に民間人を入れるのは極めて困難だ。日本の労働法制では一般人の被曝(ひばく)限度は定められている。それを破って救助していいとはならない。そんな契約をしてくれる会社は存在しない。米国では救助に行く任務を負う州兵が存在している。

 ヤツコ 州兵や地元の保安官だ。

 泉田 日本では、消防隊が行くのか、自衛隊が行くのかという議論すらしていない。民間人の被曝線量基準を緩めるか、救助してくれる部隊をつくるか、この合意なしに自治体に避難計画を作らせるのは無理だ。

 ヤツコ 驚くべきことだ。

 泉田 したがって、避難計画を作った自治体というのは形だけで実際には機能しない計画だ。

■ヤツコ「再稼働は自信をもって支持できない」

 ヤツコ そのような欠陥が存在するとは、私にはとても驚きだ。緊急対応はとても難しい。米国では、それらの事項の多くは事前に想定して計画をたてている。計画があってしかも訓練されていないと、原発は稼働できない。ヨウ素剤の配布計画を含め、あらゆることについてだ。柏崎刈羽は、どうすればいいと考えているのか。

 泉田 まず国が今の法体系を見直し、少なくとも地方自治体に対応権限を与えてくれないと、我々だけではどうしようもない。国の制度全般を見直さない限り、自治体が有効な避難計画を作るのは不可能だ。

 ヤツコ それが実現するまでは原発は再稼働すべきでないと考えているのか。

 泉田 再稼働の話だが、まず、福島の事故の検証、総括が終わっていない。日本政府の対応、東京電力の対応を含めて問題点を確定した上で対応策を出さないで再稼働の話をするのは意味がないと思っている。

 ヤツコ 緊急事態への備えの状態を聞いてとても驚いた。問題点にかなり詳細に取り組まないと、私として再稼働は自信をもって支持できない。

 泉田 日本では自然災害と原子力災害に別の法律で対処することになっていて、複合災害では事務局が二つ立ち上がる。自然災害の事務局は内閣府、原子力災害は今は原子力規制庁だ。自然災害で避難指示を出すのは市町村長、原子力災害では総理大臣だ。その結果、(福島第一原発事故では)広域の調整ができずに混乱を極めたという現実がある。総理大臣官邸と市町村長が別々に動く法体系で原発事故への対処をするのは相当危ういと思う。米国ではどうか?

 ヤツコ 連邦政府のいくつかの機関が関わるが、最終的には決定権限は州政府にある。しかし、米国では事前の計画で避難先も定め、どの方法でどの道路を通るかも決めている。時間帯に応じて最良の避難方法を割り出す詳細なコンピューターモデルも開発されている。それらはすべて連邦政府の審査を受けている。なので、連邦政府はどんな計画かを知っているし、連邦政府が支援できるように連邦政府と協議する手続きもある。

 ――米国で、機能しない避難計画があったら、NRCはどう対応するか。

 ヤツコ 米連邦緊急事態管理局(FEMA)が計画を部分的に審査し、もしFEMAが、この計画は機能しないと判断すれば、FEMAからNRCにそれが伝えられ、NRCが原発停止を指示するだろう。

 ――米国では州知事の指揮下に州兵がいて、救助に行くということだが、日本には知事の指揮下に州兵のような組織がない。どうしたらいいと思うか。

 ヤツコ 調整がなされなければならないと思う。そして、決定には知事の関与がなければならない。自衛隊のような国の組織が対応できるだろうし、地元の警察も関与するかもしれない。

 泉田 それが今は縦割りで、できない。

■泉田「住民の命を守る組織には見えない」

 ――米国では、原子力規制委員会と州政府はいい関係か。

 ヤツコ ええ、すべての州がそう考えているかは……。一般的には、イエスだ。

 ――米国では、原子力規制委員長と州知事が会うことはあるか。

 ヤツコ 定期的にある。緊急事態対応の話や原発の現状の話をする。

 ――福島の事故の後、日本にも原子力規制委員会ができたが、どう見ているか。

 ヤツコ 正しい方向への第一歩だ。しかし、緊急事態への備えは明確にされる必要がある。原子力規制委員会は、ほかの政府機関とともに、何らかの役割を果たすべきだと思う。最終的には、原子力規制委員会が、原発が安全に運転されるかを決めなければならない。したがって、原子力規制委員会は、緊急対応ができるかを審査するプログラムを持たなければならない。

 ――泉田知事は日本の原子力規制委員会の委員長に面会を申し入れ、昨年からずっと断られている。

 ヤツコ 会うのはいいことだ。

 泉田 原子力規制委員会は政府機関に勧告をする権限がある。バス運転手ら民間人の事故時の被曝線量限度の引き上げなどについて勧告してくれればいいのに、委員長は「私の仕事ではない」と逃げている。原子力規制委は、ハードウエアだけの安全水準を確認して仕事を終わりにしようとしている。住民の命を守ってくれる組織に見えない。

 ――実効性ある避難計画の策定が柏崎刈羽原発の再稼働の前提条件か。

 泉田 福島の事故の検証と総括をするまで、再稼働は手続きも含め議論しない。
(奥山俊宏、関根慎一、堀内京子)

2014.04.24 Thu l 原発再稼動 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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