下流老人とは
「生活保護基準相当で暮らす高齢者、またはその恐れがある高齢者」

と定義する。現在600万~700万人と推測し、近い将来は高齢者の9割がそうなると警告する。「今のままの社会だと『下流化』はだれにでも起こりうる。

(フロントランナー)NPO法人ほっとプラス代表理事・藤田孝典さん 「下流老人」社会に警告
2016年9月17日 朝日新聞朝刊 より転載
 さいたま市北部の芝川河川敷。8月初め、青々と草の茂る道を歩きながらつぶやいた。「ここは僕の活動の原点なんです」

 大学4年生だった2004年、廃車がずらりと連なり、50人ほどが路上生活をしていた。

 声をかけると「ほっといてくれ」。みんな心を閉ざしていた。それでも通い続け、15回通ったころ、少しずつ話が聞けるようになった。「野宿は厳しいよ」と。

 生活保護の申請に同行し、役所と交渉を重ね、アパートを何軒も回って探しながら、一人ひとり、「路上生活脱出」を手伝った。

 それを機に、生活困窮者の自立・生活支援の組織をつくり、12年間にわたり現場に立ち続ける。

 11年、NPO法人「ほっとプラス」を設立。ソーシャルワーカーによる専門的な支援として、年に300件ほど相談にのる。最近はその半数近くが高齢者だ。

 「家賃が払えない」「頼れる人がいない」。年金をもらっても、少額で暮らせないという人もいる。だれもが吐露した。「まさか自分がこうなるなんて……」

 「下流老人」。刺激的なタイトルで著書を出したのは、昨年6月だった。大きな反響を呼び、20万部超のベストセラーになった。

 下流老人とは「生活保護基準相当で暮らす高齢者、またはその恐れがある高齢者」と定義する。

 現在600万~700万人と推測し、近い将来は高齢者の9割がそうなると警告する。「今のままの社会だと『下流化』はだれにでも起こりうる。現実を見える形にしようと、本を書いたんです」

 講演・執筆依頼は年に300件近くに。全国を飛び回りながら訴える。「社会の急激な変化に加え、貧困に対する無策と無自覚が下流老人を生んでいる。社会問題として対策を立てなければ、1億総老後崩壊になりかねない」
 (文・林るみ)

(フロントランナー)藤田孝典さん 「だれでもホームレスになりうる」

 藤田孝典さんは、孤独死と自殺の現場に何度も立ち会った。

 「若いのになぜこの活動を?」

 20代前半から生活困窮者支援の活動をしていて、そう聞かれる。

 両親は共働き。貧困とは無縁に育った。高校は進学校。「おばあちゃんっ子」だったため、介護の仕事に就こうと考え、社会福祉を学べる大学に進んだ。ところが、ほどなく、人生を変える出会いがある。

 アルバイトに行く途中、自転車で男性にぶつかった。路上でテント生活をしているという。その人を「おっちゃん」と呼び、バイト帰りに必ず話をするようになった。

 おっちゃんは50代半ば。以前は銀行の支店長を務め、年収は1千万円以上。持ち家もあり、妻と息子2人で暮らしていた。

 ■根強い自己責任論

 ところが、過労でうつを発症し、リストラの憂き目に。離婚し、貯金と自宅は家族へ渡した。消費者金融からの借金がかさみ、ついにアパートを出ざるをえなくなったという。「だれでもホームレスになりうることを知りました」

 おっちゃんは労災保険、失業保険、生活保護といった、当然の権利としての社会保障を申請しても、受けられなかったということを、つぶさに教えてくれた。教科書で学んでいた制度の知識と運用の実態は、まるで違うものだった。

 「おっちゃんのような人を救える勉強がしたい」。そんな思いがわき起こったという。

 学生時代は毎週末、東京・新宿でホームレスを見回る活動に参加し、千人以上から話を聞いた。ソーシャルワーカーの資格をとり、大学院に通いながらNPOを立ち上げ、生活困窮者への新しいタイプの支援活動を始める。一人ひとり専門的に、継続的に見守りながら、自立を助けるのだ。寄付金を募り、低額で貸し出すアパートを何棟も用意した。

 そんな中で確信したのは「本人がどれだけ努力しても、貧困に陥る社会構造がある」ということ。

 ところが日本の社会では、それは自己責任だと長年考えられ、今もその意識は根強い。著書『下流老人』の中で強調したのもその点だ。

 「個人が、家族が、という問題ではなく、そろそろ、社会の問題として対策を考えていきませんか」

 都内で開かれたある講演で、こう呼びかけた。

 ■貧困から未来を見る

 NPO法人「ほっとプラス」の活動の中で、最近実感するのは、普通の人たちが病気、介護、離婚など、一つの要因であっというまに破綻(はたん)していくケースが多いことだ。

 会場の高齢者は熱心に聴き入る。

 その背景には核家族化、高齢化、婚姻率の低下、格差拡大、雇用の悪化など、社会自体の変化がある。しかし、社会保障や福祉の政策、機能がついていっていないという。

 「たとえば生活保護。年金をもらっていても受けられるのに、必要な情報が伝わっていない。そもそも日本では大半の福祉サービスが、申請しない限り受けられないんです」

 個人防衛策も説く。「プライドは捨てましょう」「利用できる制度をもっと知って」「地域の人々と交流を」……。最後にまた、「社会を変えていかないと現状は変わらない。声をあげてください」と念を押す。

 いま、下流老人以上の大きな問題としてとらえているのが、若者の貧困だ。近著『貧困世代』では「貧困であることを一生涯宿命づけられた若者たち」(15~39歳)が3600万人いると推定する。「とくに教育への援助はあまりにも少ない」

 自分もバブル崩壊後の「希望の見えない時代」を生きてきた世代。他人事には思えないものがある。

 支援のあり方も変わるべきだという。「これまでは相談を受けて、それで完結してしまっていた。その人たちがどうやって生まれてきたのかと、構造にまで働きかけないと問題は解決しません」

 そこで重要になってくるのがソーシャルワーカーの役割だと考える。

 ソーシャルワークとは本来、社会に働きかけるもの。当事者の声を制度・政策に反映させ、社会を変える。「そうした意識をもつソーシャルワーカーが、日本にも必要だと思う」。「ほっとプラス」では、同じ志をもつスタッフが集う。

 福祉学のあり方を問い、教壇では、若い人たちが社会に目を向け始める様子を見守る。社会、政治を動かす次世代の人たちを集め、勉強会も立ち上げた。

 「貧困の現場からは、社会の次の姿が見えるんです。一番弱い立場の人から、一番よく社会が見えます」。5年、10年後の予想がおもしろいほどあたるそうだ。『下流老人』で書いた未来が現実とならないために、今日も声をあげる。

 ★1982年、茨城県生まれ。ルーテル学院大大学院などで社会福祉を学ぶ。2004年から、さいたま市を中心に生活困窮者への支援活動を開始。11年、NPO法人ほっとプラスを設立。ソーシャルワーカーとして活動する一方、国や自治体などに対し、支援に関する提言を行う。聖学院大客員准教授。近著に『貧困世代』。
2016.09.18 Sun l 政治 l コメント (0) トラックバック (0) l top

コメント

コメントの投稿












トラックバック

トラックバック URL
http://natureflow1.blog.fc2.com/tb.php/489-6e939d2a
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)