トランプ大統領と世界 
覇権衰えた米国 衝撃は国内どまり 構造的危機の時代(インタビュー)トランプ大統領と世界 米社会学者、イマニュエル・ウォーラーステインさん
朝日新聞 2016年11月11日
なるほどと納得できる見解を読んで、転載しておく。

 覇権国家のトップに、政治経験のない異端のドナルド・トランプ氏が就く。米国民のみならず、私たちを含めた世界の人々も不安を覚えずにはいられない。現代世界の構造的問題を百年単位の時間軸で分析した社会学の泰斗、イマニュエル・ウォーラーステイン氏に聞いた。世界はどうなるのか。

 ――米大統領選の結果をどのように受け止めましたか。

 「個人的には、結果を聞いて驚き、失望しました。一方で、分析的な視点に立つと、この選挙の影響については一言で表現できます。米国内には大きなインパクトがありますが、世界にはほとんどないでしょう

 ――どういうことですか。

 「米国では、この選挙で右派の力が固まりました。共和党は大統領職を得たうえに議会でも過半数を占め、最高裁でも多数派を握れる状況です。彼らはその権力を使い、多くのことをするに違いありません。例えばオバマ大統領が進めたオバマケア(医療保険制度改革)を撤廃したり、税制を富裕層に有利にしたりするでしょう。移民に対してもより厳しい国となります。これらは大きな変化です」

・・・・・・・・・トランプ大統領の実現を後押ししたのは、
 一言でいえば、「排外主義」だが、それは「反グローバリズム」である。市場に任せれば経済はうまく回るとアメリカが30年間にわたり主導してきた「グローバリズム」と「新自由主義」を、真っ向から否定した。その訴えがアメリカ国民の心をとらえたのは間違いない。
その実りは、大統領職と上下両議会の過半数、最高裁でも多数派を握った共和党保守派の
「グローバリズム」と「新自由主義」がじわじわ進行していくだろう
オバマ政権よりも、はるかに過酷に
・・・・・・・・・・ こんな道筋が可能性として見えてくる。

「未来は本質的に予測不可能なのです。無数の人々の無数の活動を計算して将来を見通す方法は存在しません」

 「一方で、バタフライ効果という言葉があります。世界のどこかでチョウが羽ばたくと、地球の反対側で気候に影響を与えるという理論です。それと同じで、どんなに小さな行動も未来に影響を与えることができます。私たちはみんな、小さなチョウなのだと考えましょう。つまり、誰もが未来を変える力を持つのです。良い未来になるか、悪い未来になるかは五分五分だと思います。」

 ――では、米国の大統領になるトランプ氏も一匹のチョウに過ぎないということでしょうか。

 「その通りです。大切なのは、決して諦めないことです。諦めてしまえば、負の未来が勝つでしょう。民主的で平等なシステムを願うならば、どんなに不透明な社会状況が続くとしても、あなたは絶えず、前向きに未来を求め続けなければいけません」

以下インタヴューの転載です。
 覇権国家のトップに、政治経験のない異端のドナルド・トランプ氏が就く。米国民のみならず、私たちを含めた世界の人々も不安を覚えずにはいられない。「近代世界システム論」を唱え、現代世界の構造的問題を百年単位の時間軸で分析した社会学の泰斗、イマニュエル・ウォーラーステイン氏に聞いた。世界はどうなるのか。

 ――米大統領選の結果をどのように受け止めましたか。

 「個人的には、結果を聞いて驚き、失望しました。一方で、分析的な視点に立つと、この選挙の影響については一言で表現できます。米国内には大きなインパクトがありますが、世界にはほとんどないでしょう」

 ――どういうことですか。

 「米国では、この選挙で右派の力が固まりました。共和党は大統領職を得たうえに議会でも過半数を占め、最高裁でも多数派を握れる状況です。彼らはその権力を使い、多くのことをするに違いありません。例えばオバマ大統領が進めたオバマケア(医療保険制度改革)を撤廃したり、税制を富裕層に有利にしたりするでしょう。移民に対してもより厳しい国となります。これらは大きな変化です」

 「しかし、世界に目を向けると、トランプ大統領の誕生は決して大きな意味を持ちません。米国のヘゲモニー(覇権)の衰退自体は50年前から進んできた現象ですから、決して新しい出来事ではない。米国が思いのままに世界を動かせたのは、1945年からせいぜい1970年ぐらいまでの間に過ぎず、その頃のような力を簡単に取り戻すことはできません」

 「今の米国は巨大な力を持ってはいても、胸をたたいて騒ぐことしかできないゴリラのような存在なのです。トランプ氏は確かに、オバマ氏やブッシュ前大統領よりも危険な存在だと思いますが、選挙で主張していたように『米国を再び偉大にする』ほどの力があるわけではない」

 ――世界の超大国であるにもかかわらずですか。

 「私は、世界の資本主義システムが構造的な危機を迎えていると考えています。こうした危機の時は予想外の動きが起こりやすい。米国はその混乱を止める手段をほとんど持ち合わせていません。ドルはまだ世界の基軸通貨ですが、価値は30年前から下がっている。巨大な軍事力もありますが、国内のマイナス面が強すぎて、実際に行使するのは難しい」

     ■     ■

 ――そんな危機の中でなぜトランプ氏が登場したのでしょうか。

 「トランプ氏に投票した人たちには色々な考えがあるはずです。しかし、黒人や女性、ヒスパニックら、新たに力をつけている人たちから『国を取り戻す』という意識にアピールしたのは間違いありません。人種や女性への差別的な発言も問題にならず、むしろ一部の人たちに歓迎されました」

 「背景には多くの人が職業を失い、経済的に苦しんでいるという事情があります。でも、米国はもはや世界の製造業の中心地ではなく、何もない中から雇用は作り出せないし、(苦しむ人を支えるために)社会保障を拡充するには税収を上げる必要がある。今は高揚感が広がっていますが、トランプ氏の支持者も1年後には、『雇用の約束はどうなったのか』と思うのではないのでしょうか」

 ――米国の民主主義に危機が訪れているのでしょうか。

 「米国では現在、四つの大きな政治集団があります。共和党主流派が属する中道右派と、ヒラリー・クリントン氏に代表される中道左派の双方は、今回の選挙で弱体化した。あとは、より極端に右に行った排外的な集団と、バーニー・サンダース氏に代表される左派のポピュリストの集団があります」

 「右にしても左にしても、先鋭的な集団は内側からの批判を恐れ、どんどん極端になっていく危険性があります。また、現段階で世論調査をすれば、四つの集団はそれぞれ25%程度の支持を得るかもしれません。それだけに、予測がつきにくく、コントロールも難しい状況と言えるでしょう」

 ――欧州でもブレグジット(英国のEU離脱)のようなポピュリズムのうねりが起きています。先進国共通の問題でしょうか。

 「世界経済が芳しくなく、多くの人々が苦しんでいるのは間違いありません。苦しい状況を生み出した『仮想敵』を攻撃することで、『国を再び良くする』と約束する政治集団は各国にたくさん存在し、今後も増えるでしょう。ただ、それぞれの国で、必ずしも多数派の人が賛同しているわけではないのも事実です」

     ■     ■

 ――グローバル化の影響が表れているのではないですか。

 「私はグローバリゼーションという言葉に懐疑的です。物と人と資本がより簡単に行き来するために障壁をなくす、という状態を指しているのであれば、それは500年前から続いてきたことです。流れによって利益を得る時は皆が開放的になりますが、下向きになると保護主義的になるという循環が繰り返されてきました。最近は、この上向きのサイクルのことをグローバリゼーションと呼んでいますが、すでにスローガンとしての価値はなくなりつつある」

 「実際にTPP(環太平洋経済連携協定)やNAFTA(北米自由貿易協定)など、グローバリゼーションの成果とされていた構造は崩れています。TPPは今回の選挙結果で終わりを迎えるでしょう。さらにこうした協定は、実は開放的ではありません。当事者間では障壁をなくしますが、参加していない国との壁は逆に高くなる。むしろ、保護主義的な仕組みだととらえています」

     ■     ■

 ――今回の大統領選が大きな影響を与えないとしても、教授の言うように「近代世界システム」は衰退していくのでしょうか。

 「現在の近代世界システムは構造的な危機にあります。はっきりしていることは、現行のシステムを今後も長期にわたって続けることはできず、全く新しいシステムに向かう分岐点に私たちはいる、ということです」

 ――その移行期における日本の立ち位置はどうなりますか。

 「新しい世界システムが生まれるまでは、古いシステムが機能し続けます。資本主義システムのルールの下で覇権を奪い合う競争を続けることになる。その参加者としては、米国のほか、ドイツを中心とした西欧グループと、極東アジアのグループが理論的にはあり得ます」

 「中国、韓国、日本の3カ国は言葉はそれぞれ違いますが、バラバラにする力よりも統合する力の方が強いように思える。確かに日本の現政権は、中国や韓国との関係を深めることに熱心には見えません。過去についての謝罪が必要な一方で、自尊心がそれを困難にしているのでしょうが、地政学的に考えると、一つにまとまる方向に動くと私は考えています」

 ――現在のシステムの後に来るのは、どんな世界でしょう。

 「新しいシステムがどんなものになるか、私たちは知るすべを持ちません。国家と国家間関係からなる現在のような姿になるかどうかすら、分からない。現在の近代世界システムが生まれる以前には、そんなものは存在していなかったのですから」

 「その当時もやはり、15世紀半ばから17世紀半ばまで、約200年間にわたるシステムの構造的危機の時代がありました。結局、資本主義経済からなる現在の世界システムが作り出されましたが、当時の人がテーブルを囲んで話し合ったとして、1900年代の世界を予測することができたでしょうか。それと同じで、西暦2150年の世界を現在、予想することはできません。搾取がはびこる階層社会的な負の資本主義にもなり得るし、過去に存在しなかったような平等で民主主義的な世界システムができる可能性もある」

 ――楽観的になって、良い方の未来が来ると思いたいですが。

 「ですから、それは本質的に予測不可能なのです。無数の人々の無数の活動を計算して将来を見通す方法は存在しません」

 「一方で、バタフライ効果という言葉があります。世界のどこかでチョウが羽ばたくと、地球の反対側で気候に影響を与えるという理論です。それと同じで、どんなに小さな行動も未来に影響を与えることができます。私たちはみんな、小さなチョウなのだと考えましょう。つまり、誰もが未来を変える力を持つのです。良い未来になるか、悪い未来になるかは五分五分だと思います。これは楽観的でしょうか、それとも悲観的でしょうか」

 ――では、米国の大統領になるトランプ氏も一匹のチョウに過ぎないということでしょうか。

 「その通りです。大切なのは、決して諦めないことです。諦めてしまえば、負の未来が勝つでしょう。民主的で平等なシステムを願うならば、どんなに不透明な社会状況が続くとしても、あなたは絶えず、前向きに未来を求め続けなければいけません」

 (聞き手・真鍋弘樹、中井大助)

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 Immanuel Wallerstein 30年生まれ。ニューヨーク州立大名誉教授。元国際社会学会会長。近代世界を一つのシステムとして見る「世界システム論」で知られる。著書に「近代世界システム4」など。
2016.11.11 Fri l 政治 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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