(ニッポンの宿題)積み上がる国の借金 河村小百合さん、柴田悠さん
2017年3月4日朝日新聞朝刊 より転載

 日本の国の借金は、総額で1200兆円を超えました。財政状況の悪化は、第2次世界大戦で軍事費を急拡大させた敗戦時並みの水準です。戦争をしてもいないのに、なぜこんなに借金まみれなのでしょうか。先進国で最悪の状況が続くなか、いま、やるべきこととは。

 ■《なぜ》放漫財政、日銀の政策が拍車 河村小百合さん(日本総合研究所上席主任研究員)

 日本が先進国で最悪の借金大国へと歩み始めたのは、バブル崩壊後の1990年代、政府が景気対策で減税や公共事業を繰り返し始めたころからです。その後の銀行危機で財政拡大に拍車がかかり、さらにリーマン・ショック、東日本大震災という巨大危機の発生で借金は一段と膨らんだのです。

 その後も放漫財政が続くのは政治の責任ですが、なぜそれですんできたのか。根本には日本銀行の金融政策があると思います。
 国債を大量発行すれば長期金利が上昇して支払利息が増えるので、ふつうは安易に発行を増やせません。でも超低金利のおかげで政府は死にものぐるいで財政再建せずとも、毎年30兆~50兆円規模の新規国債を出し続けられるようになりました。また、日銀は異次元緩和の一環で毎年80兆円規模の国債の買い入れをしています。日銀が政府の財政資金をまかなう「財政ファイナンス」は財政法で禁じられていますが、事実上その状態だと言っていいでしょう。

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 財政が回るならいいのではないかと受け止める人がいるかもしれません。でもそうはいきません。国民が気づかないところに巨大なリスクが蓄積しているのです。

 異次元緩和で供給した300兆円超のお金は、民間銀行が日銀の当座預金口座に持ったまま眠っています。しかし今後、世界景気がはっきり回復して海外の長短期金利が上昇し円安が進むと、銀行は経営上、この資金を国外で運用せざるを得なくなるでしょう。放っておけば、一気に過度な円安や高インフレが進む恐れがあります。

 資金の流出や高インフレを止めるには、日銀が当座預金の金利を引き上げないといけない。でも、その財源を日銀は手持ちの国債からの金利収入だけでまかなえません。逆ざやに陥り、毎年数兆円規模の損失が発生する恐れがある。金融政策が機能しなくなります。

 日銀の巨額損失を穴埋めできるのは政府だけですが、その政府自身が日銀に国債を買ってもらえないので財源を調達しようがない。世界の情勢によっては数年以内に起きてもおかしくない事態です。

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 敗戦時、日本の財政は破綻(はたん)状態でした。大蔵省(現財務省)は預金封鎖をして、あらゆる国民資産に財産税をかけました。政府の借金を一気に国民につけ回ししたのです。そんな極端なことはもう起きないと信じたいのですが、いま政府の借金残高は1200兆円超と、国内総生産(GDP)の2倍を大きく超えています。敗戦時に近い、きわめて危険な水準です。

 現在も財政危機に陥っているギリシャは、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)から支援を受けています。でも日本にはEUのような後ろ盾がなく、世界第3位の経済大国の日本を救えるだけの資金力はIMFにありません。

 もし日本が財政危機に陥ったら短期間で自ら身を切るような財政再建をしないと、危機を乗りきれないでしょう。社会保障サービスの水準をぐっと下げ、大増税することが必要になるはずです。

 いまの消費税率8%は先進国ではかなり低い水準です。もし財政危機で国際機関に支援を求めることになったら、せめて欧州並みの20%、最低でも15%ほどに税率を引き上げないと、とても国際社会から理解は得られないでしょう。

 そんな事態に突然陥らないよう政府には早く抜本的な財政再建を進めてほしい。日銀も異次元緩和を早く手じまうべきです。金利上昇を恐れていて、どうするのですか。問題の先送りは、もっとひどい未来を招くだけです。

 いまの政策をズルズル続ければ財政は必ず破綻します。そのときになって政府や日銀に「想定外」という言い訳は許されません。

 (聞き手・編集委員 原真人)

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 かわむらさゆり 1964年生まれ。日本銀行を経て日本総研へ。金融政策や財政を研究。近著に「中央銀行は持ちこたえられるか」。

 

 ■《解く》経済効果分析し、投資を選択 柴田悠さん(京都大学准教授)

 日本の財政は、巨額の借金からすぐには逃れられません。いま取り組むべきことは、お金をかけているそれぞれの政策について、経済的な効果を客観的なデータに基づいて分析し、そのメリットを比較検討することです。日本全体の生産性を高め、経済成長へと結びつく政策は何か。お金のかかる「お荷物」ではなく、「社会的な投資」の視点から考えるのです。

 年金、医療、介護、子育てなどの社会保障に、国は一般会計予算のおよそ3分の1の32兆円ほどをかけています。金額は年々増え、借金でまかなう構図が定着し、つけは将来世代に回っています。

 なのに、社会保障関連の政策は、経済的な効果の分析がおろそかにされてきました。高齢化と高齢者票に後押しされて年金や介護などの制度が段階的に整い、高齢者向け福祉には先進諸国の平均と同じくらいのお金をかけていますが、子育て支援は先進国平均の半分にすぎません。票にならない子育て支援は「お荷物」とみなされ、抑制が続いてきました。

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 社会保障を、社会的な投資の視点から考えてみたいと思います。主要先進国のデータを用いた私自身の試算では、子育て支援は「お荷物」どころか、逆に社会全体の生産性を高め、経済成長を押し上げる効果が見込めます。

 とくに効果が大きいのは、保育所をつくる、保育ママを増やすといった待機児童解消のための保育サービスです。有能で意欲のある子育て女性が働き続けられるようになり、全体の労働生産性が向上し、経済成長を押し上げます。試算では、国内総生産(GDP)の0・1%にあたる5千億円の予算をかけると、数年以内に経済成長率を0・23ポイント押し上げる見込みです。育休の整備と比べると、倍の効果が期待できます。

 私の試算は少ないデータでの分析で、粗さも目立ちます。しかし、経済成長を押し上げる効果(乗数効果)をみると、保育サービスの効果は投入予算の2・3倍です。分析の仕方は異なりますが、1・1倍と言われる公共事業より、はるかに大きい。出生率を高め、子供の貧困を減らし、税収を増やす効果も期待できる。財政事情が改善すれば、本来必要とする政策にもっとお金を回せます。経済にも財政にもマイナスの影響を及ぼす人口急減の悪循環から、抜け出す一歩になります。

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 ただ、財源をどうするかも一緒に考えないといけません。消費税率10%は自民党も含めた3党で合意したのですから、きちんと実行すべきでしょう。それでも足りない分は一つの税に頼るのでなく、様々な税収増を組み合わせるミックス型がよいと考えます。

 たとえば相続税の課税範囲を広げ、所得税の年金課税も年収の多い世帯の税率を高くする。企業が負担する子ども・子育て拠出金を引き上げる。条件にもよりますが、財源として2兆~3兆円は確保できます。消費税は所得の低い人ほど負担感が大きいので、高所得者や企業の負担も高めていけば、負担感のバランスがとれます。お金の使い道を次世代投資に限れば、納得感も高まります。

 政策の事後検証だけでなく、より有効な政策を事前に予測し、選択と集中で投資する。与野党から呼ばれてこうした「社会的投資」の提案をする機会は増えましたが、日本では投資効果を比べるためのデータや分析が、まだまだ足りていません。

 政策の効果分析は、すでに欧米で採り入れられています。政府や各政党は、あらゆる政策を比較できるようにし、財源案とあわせて検討を深めるべきでしょう。財政再建も成長戦略も、ここから始まるのではないでしょうか。

 (聞き手・田中郁也)

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 しばたはるか 1978年生まれ。専門は社会学、社会保障論。立命館大学准教授なども経験。著書に「子育て支援と経済成長」。
2017.03.05 Sun l 未分類 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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