FC2ブログ
(平成と天皇)第8部・外国訪問:下 逆風の訪中、陛下の願い 直前に語った民主主義
2018年10月12日朝日新聞朝刊 より転載

1992年10月
天皇陛下の中国訪問、当時、自民党内の保守派には「天皇の政治利用だ」と反対する意見が強かった。

 ■戦争の傷念頭「深く悲しみ」

 10月23日、両陛下は北京に到着。最初の山場は、楊尚昆国家主席主催の晩餐(ばんさん)会だった。天皇陛下は人民大会堂西大庁の演壇で、「おことば」を読み上げた。

 「我が国が中国国民に対し多大の苦難を与えた不幸な一時期がありました。これは私の深く悲しみとするところであります」

 中国国民の「苦難」が日本によるものと明示したのは、72年の日中共同声明で「日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えた」と書かれたことを踏まえたとみられる。75年に訪米した昭和天皇が晩餐会で述べた「私が深く悲しみとするあの不幸な戦争」の表現が改めて使われた。

 席に戻った陛下に、楊主席は「温かい言葉に感謝します」と声をかけた。「おことば」全文は翌日の人民日報に掲載され、テレビでも伝えられると、沿道の市民が手を振り、拍手も起きるようになった。苅田さんらは「一つの山を越えた」と安堵(あんど)した。この後、98年の英国や2000年のオランダでも、晩餐会で天皇陛下が、日本との戦争で傷ついた人々の存在を念頭に「深い心の痛みを覚えます」と述べることになる。

 陛下にとって外国訪問とは何を意味するのか。手塚さんは「陛下は皇太子時代から『平和を守るため何ができるか』を常に考えておられた。『国と国が交わることは、相手国の人々を理解すること。自分たちの訪問が、国民同士で理解し合うきっかけになれば』とおっしゃっていました」と解説する。

 陛下自身、訪中前の記者会見でこう述べている。

 「日本は、過去を振り返り平和国家として生きることを決意しました。国際社会に貢献しようと努める現在の日本が理解され、相互信頼に基づく友好関係が増進されることを願っております」
 「言論の自由は民主主義社会の原則であります」。1992年10月15日。中国訪問の出発を8日後に控えた記者会見で、天皇陛下はこう述べた。日本国内の保守派などから訪中に反対する声が出ていたことについての質問に答えた。

 「中国訪問に関しては種々の意見がありますが、政府はそのようなことも踏まえて真剣に検討し、決定したと思います。私の立場は、政府の決定に従って、その中で最善を尽くすことだと思います」

 言葉の端々から、中国訪問の実現が難しかった背景事情がにじむ。

 当時、自民党内の保守派には「天皇の政治利用だ」と反対する意見が強かった。彼らを説得するため、橋本恕(ひろし)・駐中国大使(当時)は何度も帰国し、有力政治家らを回った。訪中を実現させたい宮沢喜一首相(同)の命を受けてのことだった。92年夏に外務省アジア局長に就任した池田維(ただし)さん(79)も「何としても成功させなければ」との強い思いで奔走。自宅周辺を警察官が24時間警備する態勢が1カ月続いた。侍従だった手塚英臣さん(84)の自宅には、夜に何度か脅迫電話がかかってきた。

 一方、中国は天皇訪中を熱心に求めた。89年の天安門事件で多くの犠牲者を出し、国際社会から孤立していた状況を打破したい思惑もあった。池田さんは、中国側から「中国と日本の間にわだかまる戦争への感情に一定の決着をつけることができる」とも言われた。

 92年8月。史上初の天皇訪中が閣議決定されると、中国公使だった槙田邦彦さん(74)は、三国志の故事「三顧の礼」になぞらえて、中国側から「九顧の礼で懇請し、ようやく実現した。大変だった」と述懐されたという。

 中国外務省アジア局副局長だった武大偉氏(後の駐日中国大使)は「北京では万里の長城の八達嶺、西安では秦の始皇帝陵や兵馬俑(へいばよう)をぜひ見に来て欲しい」と、87年に世界遺産登録された中国の歴史的建造物の視察を求めた。宮内庁式部副長として準備のため訪中した苅田吉夫さん(82)によると、天皇陛下は「どちらも遠慮しましょう」との考えだった。だが中国側の希望が強く、万里の長城視察は受け入れたが、陛下の気持ちを踏まえ「観光客の妨げにならないよう、視察中も人払いはしないで」と条件をつけた。

 日本側にとって気がかりなのは安全の確保だった。10月4日、山形県の国体開会式で訪中反対を叫ぶ男が天皇陛下に向かって発炎筒を投げつける事件があった。「訪中の際に反対デモが起きないか」と懸念を募らせたが、中国側は「問題分子は、重要行事の前に北京から追い払う」と万全な警備を約束したという。


2018.10.13 Sat l 天皇制・平和・憲法 l コメント (0) トラックバック (0) l top

コメント

コメントの投稿












トラックバック

トラックバック URL
http://natureflow1.blog.fc2.com/tb.php/594-9135bfff
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)