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(インタビュー)「戦争」でなく「失敗」 新型コロナ 歴史家・人口学者、エマニュエル・トッドさん 朝日新聞 2020年5月23日
新型コロナの世界に及ばす影響は、1929年世界恐慌と並べられるほど、大きさは計り知れない。トッド氏の論考はなるほどと思わせるので、なるほどを切り抜いておこう。

 新型コロナウイルスの感染拡大の衝撃がグローバルなレベルで日常生活を一変させた。衝撃の意味をどう受け止めたらいいのか。手がかりを求めてフランスの歴史家、人口学者エマニュエル・トッドさんにビデオ通話で話を聞いた。いわく、変化の始まりではなく、加速であるという。どういうことか。

★ ――新型コロナウイルスの感染拡大は、あなたの国のマクロン大統領をはじめ多くの政治指導者が「戦争」という比喩を使うほどのインパクトを与えています。

 「そのような表現はばかげています。この感染症の問題は、あらゆる意味で戦争とは違うからです。ただ、支配層の一部がその表現を使うことに理由がないわけではない。彼らは自らの政策が招いた致命的な失敗を覆い隠したいわけです」

★ 新自由主義経済とマクロンと
 「フランスで起きたことのかなりの部分は、この30年にわたる政策の帰結です。人々の生活を支えるための医療システムに割く人的・経済的な資源を削り、いかに新自由主義的な経済へ対応させていくかに力を注いできた。その結果、人工呼吸器やマスクの備蓄が足りなくなった。感染者の多くを占める高齢者の介護施設も切り詰めてきた。フランスは発展途上国の水準になりつつある。新型コロナウイルスは、その現実を突きつけたのです。2万5千人以上の死者を出した今、マクロン氏の政治的レトリックを真に受ける人はいないでしょう」

★ 時間をかけて医療システムが損なわれたことを今回のウイルスが露呈させた
「確かに被害は甚大でも、『突然に引き起こされた驚くべきこと』ではない。SARS(重症急性呼吸器症候群)やエボラ出血熱など近い過去に感染症はあり、警鐘を鳴らす専門家はいました。多くの国が直面している医療崩壊は、こうした警告を無視し、『切り詰め』を優先させた結果です。」
 「その意味ではマクロン氏だけを責めているわけではありません。サルコジ、オランドという歴代の大統領や、彼らを選んできた私たち世代に大きな責任がある

★――結局、新型コロナウイルス危機で、私たちは何を理解するべきなのでしょうか。
 「お金の流れをいくらグローバル化しても、いざという時に私たちの生活は守れないことははっきりしました。長期的に見ると、こうした経験が、社会に歴然として存在する不平等を是正しようという方向につながる可能性はあります。これまで効率的で正しいとされてきた新自由主義的な経済政策が、人間の生命は守らないし、いざとなれば結局その経済自体をストップすることでしか対応できないことが明らかになったのですから。生活に必要不可欠なものを生み出す自国産業は維持する必要があるでしょう」

コロナ考
(インタビュー)「戦争」でなく「失敗」 新型コロナ 歴史家・人口学者、エマニュエル・トッドさんより転記

 「国による違いも気になります。米国や英国は感染の規模が大きく、死者も多い。イタリアもそうですね。一方で、10万人あたりの死者数で比較すると、日本や韓国、台湾はうまくやっているように私には見えます。個人主義的でリベラルな文化の国と、権威主義の歴史がある国とでは、人々の振るまいに違いが生まれるからかもしれません。ドイツは感染が広がったものの、比較的うまく対応しました。ドイツは(リベラルな国の中では)規律を重視する社会です」

    ■     ■

 ――戦争という言葉との兼ね合いで言えば、フランスでは2015年に新聞社「シャルリー・エブド」が過激派に襲撃され、その後もパリなどでテロが相次ぎました。あのときも「戦争」という言葉が繰り返し使われました。

 「私は人口学者ですから、まず数字で考えます。戦争やテロと今回の感染症を比較してみましょう。テロは、死者の数自体が問題ではありません。社会の根底的な価値を揺さぶることで衝撃を与えます。一方戦争は、死者数の多さ以上に、多くの若者が犠牲になることで社会の人口構成を変える。中長期的に大きな社会変動を引き起こします。今回のコロナはどちらでもありません」

 ――ただ、死者は世界で30万人を超え、かつてのスペイン風邪やペストと比較する議論も出ています。あなたの国の作家カミュが書いた「ペスト」は世界的に読まれています。

 「そこまで深刻にとらえるべきではないと考えています。これもフランスの事例ですが、かつてエイズウイルス(HIV)の感染が広がったとき、20年間で約4万人がなくなりました。しかも若い人の割合が大きかった。今回のコロナの犠牲者は高齢者に集中しています。社会構造を決定づける人口動態に新しい変化をもたらすものではありません。」

★ 何か新しいことが起きたのではなく、すでに起きていた変化がより劇的に表れていると考えるべきでしょう
 ――すでに起きていたとは?

 「私自身を例にすれば、いま、フランス北西部ブルターニュの別宅にいます。感染が広がる前にこちらに移りました。庭があり、パリよりも人が少ない。言うまでもなく特権的です。庭付き別宅を持つ階層と、庭なしの自宅に住む階層との間ではリスクが違います」

★ 「私たちは、医療システムをはじめとした社会保障や公衆衛生を自らの選択によって脆弱(ぜいじゃく)にしてきた結果、感染者を隔離し、人々を自宅に封じ込めるしか方策がなくなってしまった。その先でこのように貧富の差による感染リスクの差が生まれているわけです」

 ――今回はグローバルなレベルで人、モノ、カネの流れが止まっているのが特徴です。

 「人々の移動を止めざるを得なくなったことで、世界経済はまひした。このことは新自由主義的なグローバル化への反発も高めるでしょう。ただこうした反発でさえも、私たちは『すでに知っていた』のです。16年の米大統領選でトランプ氏が勝ち、英国は欧州連合(EU)からの離脱を国民投票で選びました。
新型コロナウイルスのパンデミックは歴史の流れを変えるのではない。すでに起きていたことを加速させ、その亀裂を露見させると考えるべきです。 ・・・これは悲しいこと・・・・(^-^)
あなたの挙げた歴史的な疫病との比較をナンセンスと思うのはそのためです」

    ■     ■

 ――あなたは以前からEUに批判的ですが、今回見えてきたのは国レベルでは何も解決できない、国際協調こそが重要だ、ということではないでしょうか。

 「国際協調するべきかと問われればイエスですが、EUの存在感はありませんね。その意味でメルケル首相は正しかった」

 ――と言いますと?

 「マクロン氏は自国の対策も打ち出せない中で、当初から『欧州の結束』『欧州の主権』などと叫んでいましたが、メルケル氏はその間に、ドイツ国民へ向けて何をするべきかを語りかけていました。興味深いことに、その演説の中に欧州の話はありませんでした。国家単位で連携していけばいいことですし、これも今回に始まったことではありません」

 ――国によってインパクトに違いがあるのは事実です。一方で、一国で完結しないサプライチェーン(供給網)で覆われた世界経済では、世界大恐慌以来の影響が出る見通しが語られています。

 「短期的には既存の経済的な不平等が激化するでしょう。感染リスクは不平等に分配されています。欧州では極右の排外主義が近年力を強めていましたが、いささか挑発的な言い方をすれば、ウイルスは今のところ反レイシズム的です。移民排斥を訴える極右政党を支持する労働者と、移民を区別しません。貧しい人は等しくリスクにさらされやすい」

 「注目しているのは、比較的うまく対応できた国々では、政府、政治エリートへの信頼が高まるのではないかということです。例を挙げれば韓国、ドイツが含まれるようにみえます。一方で英仏などは政治家がろくな対策を打てず『ひとまず家にいてください』と言うしかない状況だった。
でも市民は、それなりに秩序立った社会を維持した。『エリートが機能しなくても社会の統制はとれる』という経験をしたことは大きい。このような国では、既存のエリートの正統性がますます失われていくでしょう」


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 ――結局、新型コロナウイルス危機で、私たちは何を理解するべきなのでしょうか。

 「お金の流れをいくらグローバル化しても、いざという時に私たちの生活は守れないことははっきりしました。長期的に見ると、こうした経験が、社会に歴然として存在する不平等を是正しようという方向につながる可能性はあります。これまで効率的で正しいとされてきた新自由主義的な経済政策が、人間の生命は守らないし、いざとなれば結局その経済自体をストップすることでしか対応できないことが明らかになったのですから。生活に必要不可欠なものを生み出す自国産業は維持する必要があるでしょう」

 ――ただ、国レベルの対策でいくら感染を抑制しても、ウイルスは国境をこえて広がっていく現実があります。国際秩序のあり方に影響を与えないでしょうか。

 「今後もこれまでと同様に、米中対立が進んでいきます。中国はどんなに経済的に発展しても、コロナ対策で比較的早くその影響から抜け出すことができても、第一極になることはない。今回の一連の動きを見ていても、感染をいち早く抑制した後も国際的な信用は落ちたままです。そして国内の人口構造上の脆弱さを抱えたままです。地政学的な意味での国際秩序の力関係は『コロナ後』も変わらないでしょう」(聞き手・高久潤)

    *

 Emmanuel Todd 1951年生まれ。政治や社会を、家族構造や識字率などを踏まえた独自の視点で分析する。著書に「グローバリズム以後」など。
2020.05.23 Sat l コロナ・パンデミック l コメント (0) トラックバック (0) l top

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